2021年12月29日の「毎日新聞」(朝刊)のオピニオン面である「論点」に、「バッシング考」というテーマで、「根底に世間の同調圧力」というインタビュー記事が掲載されました。聞き手は宇田川恵記者。とくに小室さんへのバッシングの根底には「世間」があり、そこから生まれる「共感過剰シンドローム」が、人々の「迷惑をかけられた」と思い込んでしまう意識を作り上げていること、「世間」がきわめて古い歴史をもち、いまだに家意識が残っているために、結婚が家と家とのつながりと考えられていることなどを指摘しました。
このコーナーでの他の論者は、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんと、名古屋大学準教授の河西秀直哉さんです。
https://mainichi.jp/articles/20211229/ddm/004/070/009000c
内容は以下の通りです。
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「論点・バッシング考」
「世間」評論家、佐藤直樹
1951年生まれ。九州大助手、英国エジンバラ大客員研究員、九州工業大教授などを経て、同大名誉教授。著書に「同調圧力」(鴻上尚史氏との共著)など。=藤井太郎撮影
「根底に世間の同調圧力」
小室圭さんへの攻撃をはじめ日本で起きているあらゆるバッシングの根底にあるのは、欧米などには存在しない「世間」であり、世間の中で強まっている「同調圧力」だと思う。
世間とは、日本人が集団になった時に、その空間に生まれる力学的なものだ。欧州でも12世紀前後までは世間があった。だが、キリスト教が広がり、神と向き合う「個人」が生まれ、個人が集まって「社会」が作られた。社会は法というルールで支配され、世間は消えた。
日本では1000年以上前から世間が連綿と続いている。近代化に伴い社会を作ろうとしたが世間は壊れず、世間と社会の二重構造になった。社会はあくまで建前で、世間が本音なのだ。例えば「友引」の日に葬式をしないのは世間のルールで生きているからだ。
そんな世間には同調圧力を強める多くの問題がある。一つが「共感過剰シンドローム」だ。日本人なら終業時間がきても、同僚が仕事をしていれば帰宅しにくい。個人が確立された欧米では、あり得ないことだ。つまり日本人は自分は自分、他人は他人、と考えられない。小室さんの結婚はそもそも人ごとなのに、自分のことのように感じる。特に多くの税金が使われる可能性があるなどと知ると、自分がものすごく迷惑をかけられていると思ってしまう。
憲法は「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」すると定めているが、世間の本音は違う。家制度の意識が強く残り、結婚は家と家とのつながりだと考える。小室さんの結婚は、ましてや天皇家にかかわる問題だ。さらに迷信や俗信が山のようにある世間では天皇制は神秘性を持ち、これを壊しかねない事態を容認できない。
世間では家族の中も個人と個人の関係になっていない。だから小室さんは母親の金銭トラブルを「息子なら責任をとれ」と攻撃された。小室さんへのバッシングが異様だったのは、世間が抱えるあらゆる問題が噴出したからだ。
世間を社会に変えなければいけない。だが、この約20年で逆に強固になっている。グローバル化や新自由主義が広がる中、人々は激しい競争にさらされ、首を絞め合い、寛容性を失って同調圧力は強まった。そして新型コロナウイルス禍で世間はついに暴走した。「感染した」という、それだけの理由で本人ばかりか家族まで激しく攻撃されるのは日本だけの現象だろう。その根底には「病はケガレ(悪)」という考えがある。
世間を変えるのは簡単ではないが、地道に変えるしかない。「謎ルール」を見つけて廃止するのが一つの方法だ。例えば「夫婦(めおと)茶わん」。夫用が大きく妻用が小さいのは男尊女卑の意識があるからで、欧米人なら理解できない。
総務省によれば、SNS(ネット交流サービス)のツイッターの匿名率は米英両国が30%台に対し、日本は約75%と突出している。実名だと世間にたたかれるから匿名となり、傍若無人になって人を自殺にまで追い込む。発言を実名にすることはまずは必要な一歩だ。【聞き手・宇田川恵】
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2021年12月30日
「毎日新聞」(2021年12月29日)の「論点」の欄に「バッシング考-根底に世間の同調圧力」が掲載されました。
posted by satonaoki at 11:02| NEWS